「技術力の不足が障壁となって、契約を逃したことはないですね」

そう胸を張るのは、福岡県にある株式会社ピー・ビーシステムズで製造本部の副本部長兼開発部長を担う武石勝氏。ピー・ビーシステムズは基幹システムのクラウド化を得意とするエンジニア集団だ。今や、どの企業においても避けては通れない課題となっている、テレワークシステムの導入も、クラウド化の活用例といえる。

武石氏はもともと東証一部上場の大手IT企業でバリバリ働くエンジニアだったが、とある出会いから、社員規模にして数十分の一となる地方の中小IT企業「ピー・ビーシステムズ」への転職を決断した。

「不安だらけでしたが、今となっては転職してほんとに良かったと思いますね」

そう微笑む武石氏のキャリアを振り返ることで見えてきた、エンジニアにとってのやりがいとは、そして、「No.1の技術で日本を救う」と息巻く、ピー・ビーシステムズの果敢なチャレンジに迫る。

武石勝さん

たけいしまさる。1972年生まれ。大分県玖珠郡出身。KCS大分情報専門学校を卒業後、社員が数百名規模のITシステム・コンサルティング会社に入社。その後、東証一部に上場している大手SIerへと転職し、九州支社に勤務。2014年、株式会社ピー・ビーシステムズへ入社。基盤部の部長を経て、現在は製造本部副本部長兼開発部長を務める。趣味は音楽活動。バンドや弾き語りでギターを担当し、インディーズでCDを複数枚リリースしている。

前職=大手IT企業で唯一欠けていたのは「仕事の達成感」

情報系の専門学校を卒業後、武石氏は社員が数百名規模のITシステム・コンサルティング会社へと就職し、地元である大分事業所に配属となった。10年以上勤務する中で知識やスキルを磨き、クライアントのシステム基盤(ネットワーク、サーバー等)を構築する案件などのチームリーダーとして活躍。

その当時、武石氏の名刺に書かれていたのは、自社名ではなく、世界有数のコンピューターメーカーの社名だった。といっても、決して武石氏が経歴を詐称していたわけではない。

「下請けとして仕事を受け、エンジニアが元請けの企業名でクライアント先に派遣されるというのは、この業界では昔も今もよくある話です。おかげで、自社単独では受けきれない大きな規模のプロジェクトにも参加できましたし、そこで人脈を築くこともできました。

でも、ある時ふと『自分の会社って、どこなんだろう』って我に返るんですよね。他社の名前で仕事をした経験があるエンジニアなら、自社への帰属意識が薄らぐという経験が、誰しもあるんじゃないでしょうか。それで、会社の名前で堂々と仕事ができる大きな企業で働きたいと思うようになりました」

転職先として選んだのは、東証一部に上場している大手SIer。しかし、自ら望んで飛び込んだこの環境から、武石氏は約8年で離れることを決める。その理由について、「達成感の欠如」と言い切る。

「前職は、『大企業なら自社の名前で大きな仕事ができる』と期待した通りの環境でした。誰もが名前を知っている大企業をクライントにして、インフラ基盤の構築だけで数億円といった規模のプロジェクトに参加したこともあります。エンジニアとしてのレベルは確実に高まりました。それなりに給与もいただいていましたし、不満はなかったんです。

でも、何か違ったんですよ。『この仕事は、自分が成功させた』と言い切れないモヤモヤが残るというか。プロジェクトが大きくなればなるほど、関わる人数も多くなって、仕事は分業制になる。自分が担当しているのは、そのほんの一部分。一人ひとりに課せられる責任は少なくなるかもしれませんが、僕はむしろ、責任は負っていいから、もっと仕事でやり切った感が欲しかったんですよね。自分から志願して転職しといて、わがままな話なんですが、100%の達成感を得られないままエンジニア人生を終えるのは嫌だったんです」

40代に差し掛かった武石氏、二度目の転職活動が始まった。

ピンチを救ってくれた凄腕エンジニアとの出会いが転職につながる

二度目の転職を考えていた当時、武石氏は既にプロジェクトマネージャーなどの重責を担う立場になっていた。九州支社から東京本社に転勤することで、より大きな案件にチャレンジして達成感を得るという選択肢はあったかもしれない。実際、東京本社への転勤という話はあった。

しかし、武石氏にとって福岡を離れることは難しかった。

「出張などで何度も東京に行くたびに、ここに一生住むというのは、僕には無理だと思いました。大分の田舎育ちですから、疲れちゃいそうで(笑)。趣味で音楽をやっていたので、その仲間と離れて東京に行くというのも嫌だった。東京本社に行けば、今より大きな仕事ができるのは分かっていましたが、人生は仕事だけじゃないですからね」

福岡で転職しようと考え始めた頃から、武石氏の脳裏にはある会社の名前がぼんやり浮かんでいた。それが、株式会社ピー・ビーシステムズ。今の職場である。武石氏が転職先の候補として同社をイメージしていたのは、パートナーとして一緒に仕事をした経験からだった。

「あるプロジェクトが頓挫して、技術力のある協力会社を探していた時に、ピー・ビーシステムズを探し当ててヘルプを依頼したことがありました。その時に助けてもらったエンジニアの技術が凄かったんです。

大企業にいて、中小企業を下に見ていたわけではないんですが、正直、かなりの衝撃でした。おかげでプロジェクトは無事、成功。『福岡にこんな会社あったんだ』と、驚きましたね。ピー・ビーシステムズが得意としているのは主に基幹システムなので、当時僕がやっていたインフラ系の仕事に通じるところもありましたし、福岡で転職すると決めた時に、真っ先に頭に浮かんだ企業でした。ここならビッグプロジェクトの“ワンピース”ではなく、自分の技術力を武器に、手応えのある仕事ができるんじゃないかと思ったのが転職を決めた理由です」

“運命の出合い”を経て、ピー・ビーシステムズに転職することになった武石氏だが、東証一部上場の大企業から、地方の中小企業に転職することへの、当時の素直な本音も話してくれた。

「100%自分の希望を叶える会社なんてないですから、正直、妥協はしましたよ。社員が数千名いる企業から、50名足らずの企業に行くわけですから、関わる案件の規模は小さくなると思ったし、給料も下がることは覚悟しました。実際、最初は年収ベースで100万円以上、下がりましたしね。前職時に助けてもらったエンジニアの技術力が一つの指標にはなりましたが、あくまで“福岡で”仕事のレベルを下げずに働くなら、ここがいいかなという選択。大企業だった前職と同じ規模、技術水準の仕事ができるとは考えていませんでした。当時は、ですけどね」

「あー、いい仕事した!」と言い切れる爽快感

「福岡で働き続けるなら、これくらいで仕方ない」と妥協しつつピー・ビーシステムズに入社した武石氏だったが、その予想は入社早々にして、いい意味で裏切られることになった。

社員数も売上も、企業の大きさの面では、東証一部上場企業だった前職と比較になるはずもないのだが、やっている仕事の規模感は前職と同等。場合によっては、前職以上ともいえる大きな案件を担当できた。技術の面でも同じで、前職よりも最新テクノロジーに触れる機会が減ったかといえば、その逆で、むしろ増えたそうだ。

「IT業界の名だたるメーカーが、“こんな小さな会社”のために勉強会を開いてくれたり、新製品などの情報を逐一知らせてくれたりすることに驚きました。入社するまで知りませんでしたが、当社はクラウド化の分野では業界内で一目も二目も置かれた存在です。だから、依頼される案件も、福岡、九州のみならず、全国のクライアントを相手にしたハイレベルなものばかり。嬉しい誤算の連続でしたね」

ピー・ビーシステムズの主力事業は企業の基幹システムをクラウド化するというもの。クラウド化に使用する各種ソフトに精通しており、中でも世界的IT企業であるシトリックス社の製品に関しては、同社から全製品分野のスペシャリストとして、最上位であるプラチナプラスパートナーに国内で初めて認定されている。エンジニアのほとんどがクラウド化のエキスパートという企業は日本国内を見渡しても希少。唯一無二の存在であることが、社員数50名程度にして、大手に引けをとらない規模、レベルの案件を手掛けられる理由となっている。

武石氏の嬉しい誤算は続く。転職した当初、年収にして100万円以上下がった給与が、数年後には前職を上回る額へとアップしたのだ。

「前職は東京が本社だったので、東京ベースで考えられた額をもらえていました。転職活動中にエージェントに相談した際も、『その金額は九州では諦めてください』と言われていたので、『結果を出せば給料は上げる』と面接で社長から言われた時も、そこまで真に受けてなかったんですよね。だからこそ『ほんとに上げてくれた!』と、驚きました。個人の頑張りをしっかり評価してくれることが有難く、モチベーションにもなりますよね」

仕事の規模も、技術レベルも、そして給与面でも満足いく環境で働きつつ、転職の最大の理由となった「仕事の達成感」についてはどうだったのかを武石氏に聞いたところ、「100点満点」との回答。

「少数精鋭なので歯車で許されるはずもなく、全員がエンジンとしての活躍を求められます。自分がやらないとこのプロジェクトは失敗する、そんな緊張感の中で仕事ができていますから、やり遂げた時の充実感はすごいですよ。『あー、いい仕事した!』って言い切れる気持ちよさは、当社に入って初めて味わう感覚でした。

転職当初は、『こんなことまで自分でしなきゃいけないの?』『これってエンジニアの仕事なの?』と戸惑うこともたくさんありました。知らず知らずのうちに、大企業の分業制に慣れて、甘えていたところがあったんでしょうね。でも、システム開発とは直接関係のない業務までやっていく中で、そのプロジェクトの成り立ちとか、お金の流れとか、いろんなことが見えるようになったんです。自分の頑張りが会社の経営にどんな影響を及ぼすのかまで分かるので、システム開発や構築に専念していた時よりも、仕事の面白さが増したことは確かです」

エンジニアとしてやりたいことができる会社、それがピー・ビーシステムズ

エンジニアとして間もなく30年のキャリアを重ねようとしている武石氏は、エンジニアにとってのやりがいには、いくつかの段階があると自身のキャリアを振り返る。

「最初は、技術者としてスキルアップすること、聞かれて分からないことがなくなること、それ自体がやりがいでした。そこから成長すると、自分だけじゃできない規模の仕事を、チームをまとめてやり遂げることに面白さを感じるようになりました。でも、ここまでは自分主体のやりがいです。長くエンジニアをやってたどり着いた、今のやりがいは、クライアントに喜んでもらうこと。それに尽きます。

エンジニアのスキルも、そこから生み出されるシステムも、結局はクライアントの望みを叶える手段でしかないんです。だから、自分の経験やスキルを駆使して、いかにクライアントの要望を実現させるか、これがエンジニアの行きつく醍醐味なんじゃないかと思いますね」

武石氏の言葉通り、クライアントのニーズを満たすことがエンジニアのやりがいであるとするならば、ピー・ビーシステムズは、そのやりがいを得やすい企業といえる。先に挙げた、基幹システムのクラウド化に関する卓越した技術に加え、同社が特定のメーカーや親会社に依存しない独立系の企業であることもその一因。クライアントにとってベストな解答を、何にも縛られることなく、あらゆる選択肢の中から組み合わせることができるのだ。例えば、クライアントのためになるのであれば、あえて旧型のシステムを使うこともいとわない。

ピー・ビーシステムズの冨田和久社長もこう言う。

「クライアントにとって最先端のシステムより仕事がしやすいのなら、古くたっていいじゃないですか。正直、オシャレではないですよ。でも、お客様の評価にしか我々の存在理由はないと思っています。エンジニアにしか分からない技術力で一目置かれたって、それを、エンドユーザーに納得してもらわなければ価値がありませんよね」(冨田社長)

代表取締役社長の冨田和久氏

ピー・ビーシステムズが最も得意とする基幹システムのクラウド化。それを活用したテレワーク環境の構築。今、まさに世の中に求められているシステムといえる。ピー・ビーシステムズが提唱しているのは、自宅にいながらオフィス以上に快適に仕事ができる「ハイパーテレワーク環境」。何らかの不便はありながら、自宅にいてもオフィスと同程度の仕事ができる、“その場しのぎ”のテレワーク環境とは一線を画している。

コロナ禍において急速に広まった、在宅勤務というワークスタイル。期せずして、会社に行かなくても仕事ができると分かってしまったからこそ、今後、感染拡大が落ち着いたとしても、出勤と在宅が選べる「ハイブリッドワーク」という働き方は一般的になっていくことだろう。しかし、その場しのぎで構築されたテレワーク環境には、多くの問題が潜んでいると冨田社長は語る。

「必要に迫られて急いで導入したテレワーク環境のいろんな“ひずみ”が、今後、表面化してくると思っています。セキュリティ面のトラブルはその最たるものですし、緊急事態だから我慢できていた使い勝手の悪さも、テレワークがずっと続くとなればストレスになっていくでしょうね。ハイパーテレワークを実現できる当社の技術は、今後、世の中に必要とされるものだと確信しています。自分たちが日本を救う、それくらいの心意気で使命感に燃えていますよ」(冨田社長)

武石氏、そして冨田社長の話から、エンジニアにとって腕が鳴る環境があり、世の中に必要とされる企業であることが見えてきたピー・ビーシステムズ。

最後に武石氏に、あえて漠然と、「エンジニアにとってピー・ビーシステムズとはどんな会社なのか」を尋ねてみた。

「エンジニアとしてやりたいことができる。技術者たるもの、こうありたいという存在でいられる。最高に面白い会社だと思いますよ。今だから言えますけど、こんな小さな会社に転職して大丈夫なのか不安だらけでした。でも、『よく決断した!』と、当時の自分をほめたいですね(笑)」

撮影/東野正吾

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「大手企業から転職して大正解」 ピー・ビーシステムズで躍動するエンジニアの偽らざる本音

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