ある農家が育てる野菜に惚れ込み、東京から長崎・雲仙に移住

「We are what we eat――私たちは私たちの食べるものでできている」

こう言ったのは、かのアリス・ウォータースさん。アメリカ・カリフォルニア州バークレーにあるレストラン「Chez Panisse(シェ・パニース)」の創業者であり、食を通した社会活動を積極的に展開するその姿は「食の革命家」「オーガニックの母」とも呼ばれている。

1971年のオープン以来、Chez Panisseではオーガニックの、しかも手の届く範囲内の生産者から食材を調達し、調理してテーブルに出すという試みで、私たちにとって一番身近な「食」と向き合ってきた。その知名度は世界中に広まるともに、全米で“最も予約の取れないレストラン”として知られるようになった。

このChez Panisseのスタイルを受け継いだ一軒の店が、長崎の小さな温泉のまちにある。

レストランを営むのは、原川慎一郎さん。

目黒の「BEARD(ビアード)」、神田の「The Blind Donkey(ザ・ブラインド・ドンキー)」など、知る人ぞ知る名レストランでオーナーシェフだった原川さんが東京を去り、長崎県の海沿いの静かなまちに新生BEARDを開いたのは、コロナ禍が始まって少し経った2年前。以来、客足の絶えない人気店として、また地域に「新しい風」を吹かせる存在として、重要な場となっている。

原川さんは、なぜ東京を離れて長崎に移り住んだのか。話を聞くうちに見えてきたのは、ある一人の農家の存在と、今を生きる私たちにとって「食」とは何かという、答えのない問い。「地球にとって大切な人」と原川さんが慕う農家との出会いと、長崎のBEARDについて話を聞いた。

原川慎一郎

はらかわ・しんいちろう静岡県生まれ。BEARDオーナーシェフ。レストランやビストロでのキャリアを経て、2012年に目黒にレストランBEARDをオープン。17年、カリフォルニアのChez Panisse元総料理長であるジェローム・ワーグ氏とともに東京神田にThe Blind Donkeyをオープン。21年1月、新生BEARDを長崎県島原市雲仙にオープン。

自由で縛られない生き方が育んだ“食”への道

長崎県雲仙市小浜町。湯煙たなびく温泉まちの一角に、BEARDはある。キッチンに面したカウンターには椅子が8脚。カウンターの上には、食材や調味料、皿が無造作ながらも存在感を放つように並べられている。

原川さんはそのすぐ奥で、パンをカットしたり、スパイスを潰したり、野菜を揚げたり焼いたりして、器に盛って目の前に差し出してくれる。カウンター越しに見るその動きはまるで静寂なパフォーマンス。劇場で幕が開け、演劇やダンスを見ているかのような、あの特別な感覚と似た気持ちにさせてくれる。

原川さんが料理の道に進むことを決めたのは、27歳の時。シェフとしては、比較的遅めのスタートだったが、その間に積んだ経歴は、自由でどこにも縛られることのないという意味で、原川さんらしい。

東京生まれ、静岡で育った原川さんは、高校卒業後にカナダの語学学校へ留学。そのまま現地のカレッジに進学し、マーケティングを専攻した。卒業後に帰国し、京都にあるカナダ専門の旅行会社に就職するも、傍らで請け負っていた翻訳業務が多忙を極めるようになったことで、東京に移住して本格的に翻訳業にシフト。数年後にはNHK関連の企業に転職した。

もともと音楽が好きで、週末にはクラブに行くことも多かったという原川さん。帰りは友人たちと小洒落た飲食店をハシゴするのもしばしば。気づけば、クラブへ行くことよりも店で食べたり飲んだりすることが楽しみとなっていたのは、「“食の空間”はコミュニティをつくり、新しい文化を生み出す」と直感的に感じていたからだった。

「クラブって、音楽がうるさいのでコミュニケーションが取りづらいけど、食事の場って対話があるじゃないですか。カフェや居酒屋に行くと、色んな年代、業界、職種の人がいる。まるで50 年代のパリのカフェのようで、ああ、こういうところから新しい文化が生まれるんだなあって思いました」

実際、ヨーロッパのカフェには、昔から今まで変わらず人々を集わせる魅力がある。20世紀初頭、モンマルトルのカフェに集った画家や音楽家は数知れず。サルトルやボーヴォワールもパリのカフェに日夜集い、議論を交わした。そうした意味で、カフェとは一杯のコーヒーを超え、カルチャーとモードを発信する“場”として機能してきたのである。

カナダ滞在中にはニューヨークに足を伸ばすことも多かったという原川さんにとって、そうした場所として機能する欧米のカフェ文化は、強く記憶に残る存在だった。

人々が集い対話する――カルチャー発信の拠点としてのレストランをつくる

東京でカフェやレストランに通ううちに原川さんの中に“自然と”芽生えたのは、「自分で店を開きたい」という思い。「だったら、自分で料理ができたほうがいい」というシンプルな理由から、料理の道を歩んでいこうと決意した。

“自然と”というのは、原川さん自身、もともと料理が得意な祖母の影響を強く受けて育ったから。

「僕、よくおばあちゃん家に預けられていたんです。おばあちゃんは毎年梅干しを漬けたり味噌を仕込んだり、昔ながらの手仕事はもちろん、バターロールを焼いたりババロアを作ったりするような、当時からするとちょっと粋なところもあって。僕もかつお節を削ったり、庭の野菜を取りに行ったりと、しょっちゅう手伝っていましたね」と当時を振り返る。

「だからといって、料理人になりたかったというよりも、人と人が出会って、交流することで生まれる何かがある。そんな“場”を作りたかった」と原川さん。「そしてもしやるなら、本気で作ったおいしい料理をしれっと出したかったんです」とも。

「35歳までには自分の店を開く」という目標を掲げ、渋谷にあった小さなフレンチレストランで2年間の修行を経て渡仏。ブルゴーニュの星付きレストラン「La Madeleine」で1年間修行して帰国し、再び都内のレストランで研鑽を積み重ねた。

原川スタイルの確立へと導いたChez Panisseとの出会い

〈▲ アミューズは、黒田五寸人参の間引き人参を生のまま。料理は味わうことであり、感じることでもある――そんなことを教えてくれる〉

フランス滞在中は、お金を貯めてはスペイン、イタリア、ベルギーなどを旅行し、あちこちのレストランやビストロに足を運んだ。同時に、地元のマルシェに足繁く通った経験が、のちの原川さんの料理のスタイルへとつながっていった。

「フランスのマルシェって、特別なイベントでもなんでもなくて日常に『ある』ものなんですよ。オーガニックのマルシェも頻繁に見るし、そういうところで生産者と直に顔を合わせて食材を選ぶという体験は、僕にとって初めてでしたね」

ところが帰国してみると、身近に通えるマルシェがない。調べるうちに、青山のファーマーズマーケットや鎌倉のレンバイ(鎌倉市農協連即売所)などの存在を知り、足を運ぶようになった。生産者とダイレクトにつながり、食材の“背景”に踏み込んでいくうちにいつしか生まれていたのは、「本当においしい野菜って何だろう」という問いだった。

この頃、その問いをさらに掻き立てるような出来事が次々と起こった。ひとつは、冒頭にも紹介したアメリカ・カリフォルニア州にあるレストランChez Panisseの存在を知ったことだ。

Chez Panisseでは開店以来50年間、「ローカル、オーガニック、シーゾナル」を掲げ、レストランから数時間ほどの距離にある有機農法の生産者が育てた食材を使ってきた。毎日決まったメニューを充実させるために食材を買い求める従来のやり方ではなく、その時期にしか手に入らない旬の食材を仕入れるところから、その日のメニューを決める。この食材をもっともおいしく味わってもらうための一皿を生み出すために、シェフは自分たちのアイデアを惜しみなく出し合い、形にしていく。

「こんなレストランがあるなら、いつか行ってみたい」

その夢が叶うまでに時間はかからなかった。知り合いのツテで出会った料理人の野村友里さんが、Chez Panisseのシェフ達と日本で食のイベントを開催することになり、原川さんも手伝うことになったのだ。

2011年秋に開催された参加型の食とアートのイベント「OPEN harvest」は、東日本大震災の後ということもあり、食だけではなく、食を取り囲む社会や自然環境もテーマに巻き込み大盛況を収めた。のちに原川さんと一緒にレストランThe Blind Donkeyを開くことになるジェローム・ワーグさんともこのイベントで出会う。

独立、そして日本を代表するオーガニックレストランへ

2012年、満を持して独立し、ビストロBEARDをオープン。目黒の住宅地に溶け込むように佇むその店は、駅から徒歩10分という便利とも言えない立地にもかかわらず瞬く間に人気店となった。

当時から原川さんがこだわっていのは、生産者から直接仕入れた旬の食材を活かす料理と、ナチュラルワイン。12席しかないこじんまりとした空間にはいつも、料理とともに会話を楽しむ人々が国内外から集い、2015年にはイギリスのカルチャー誌『MONOCLE(モノクル)』のレストランアワードでベスト1にも選ばれた。そこにはすでに「farm to table restaurant(“農場から食卓へ”を実践するレストラン)」と記されている。

この頃、毎年夏になると店を閉めて渡米し、Chez Panisseのあるバークレーに長い時は3週間ほど滞在しながら、オーガニック農法やそのキッチンのスタイルを心身で学んだ。

同店のヘッドシェフ、ジェローム・ワーグさんとは、日米を互いに行き来する間柄となり、その後、日本国内でも一緒に食材を求める旅を続けることとなる。

「ジェロームと産地巡りをしているうちに、次は東京で一緒に店をやろう、という話に自然となっていきました。お互い次のフェーズを模索していたんだと思います」

2017年、原川さんはBEARDを閉じ、ジェロームさんと東京・神田に新しくThe Blind Donkeyをオープンさせる。地産地消・サステナビリティをコンセプトに掲げ、「farm to table」にますます力を入れたその店は、海外の食通からも注目を集める日本を代表するオーガニックレストランとして、その地位を確実なものとしていった。

一人の種取り農家に魅せられ、東京から雲仙に移住

再び転機が訪れたのは、The Blind Donkeyをオープンしてまもない2018年。長崎・雲仙で直売所の開店準備に奔走する奥津爾(ちかし)さん・典子さん夫妻が店にやってきたことだった。

奥津夫妻は、ある一人の農家との出会いをきっかけに2013年に東京から雲仙に家族で移住し、雲仙近郊のオーガニック野菜を主とした農産物を取り扱う直売所「タネト」を2017年にオープン。以来、料理教室やイベントなど幅広い活動を通じて、風土に根ざした食のあり方を精力的に発信し続けている。

そんな奥津さんの口から出たのは、岩崎政利さんという農家の名前だった。

〈▲ 農家の岩崎政利さん〉

大量生産・流通に適した画一的な野菜がほとんどのキッチンに浸透する今、多様性に富んだ在来野菜は激減し、店頭で見かけることはほぼなくなった。そのような中で、雲仙で40年間も、80におよぶ野菜の種を自家採種している種取り農家のパイオニアが岩崎さんだ。

奥津夫妻は、原川さんのスタイルに深く共感。自分たちが東京から長崎に移住してまで岩崎さんの野菜を売りたいと思ったことを話し、そんな素晴らしい人がいるから会いに来ないか?と声をかけた。それまでも産地巡りをする中でたびたび岩崎さんの名前は耳にしてきた原川さんは訪問を決意。その年の秋には店のスタッフを連れて雲仙を訪れた。

畑を目の前にした時の衝撃は今でも忘れられないと話す。

「僕もこれまで色々な畑を見てきましたけど、岩崎さんの畑を目の前にした時、この畑は何かが違うということは肌で感じました。ちょうど人参を栽培されている時期だったんですけど、どの畑でも感じたことのないレベルの生命力。まるでジブリの映画に出てくるようなシーンで、家に帰ってきた主人にうわーっと飛びついてくる子犬の群れのような、それくらい生き生きとした人参だった。すごいというよりも、むしろ怖いくらいのパワーなんです」

〈▲ 黒田五寸人参の花〉

美味しさとは他者の心身とのバイブレーション

東京に帰ってからは、岩崎さんの野菜を定期的に取り寄せたが、そのたびに「この美味しさは一体何なのか」という、言葉にできないが突き動かされる気持ちが膨らんでいった。

「ハーゲンダッツのアイスクリームって美味しいじゃないですか。でも、それとはまた違う美味しさってあるでしょう。例えば、お母さんとかおばあちゃんが作ってくれた卵焼きとか。何がって聞かれると言葉にしづらいんだけど、食べるとすごく心が温まるというか。記憶なのか、感覚なのか、味覚とはまた違う、懐に沁み入る味。

僕は、バイブレーションだと思ってるんです。心のこもった素材があって、心を込めて作っているお母さんがいて、そこに自分の感覚とか身体が共鳴している。それが美味しいってことなんだと。そんな美味しさが、岩崎さんの野菜にはあるんです」

その頃、北海道に拠点を移す新たな構想を描いていたが、その「言葉にできない美味しさ」に突き動かされるように、雲仙への移住を決意。直後にコロナ禍に襲われたが、不思議と迷いはなかった。

絶対に行く。あの野菜が、畑が、土が、あるところへ。気持ちは揺るがなかった。

私たちが知っている野菜の概念が覆される「瞬間」

2021年1月。雲仙市小浜(おばま)町の温泉街の一角に、新生BEARDをオープン。岩崎さんの在来野菜を中心に、地元産の有機食材の生き生きとした味わいを、できるかぎりそのまま楽しめる料理を提供している。

メニューは、日々仕入れる有機野菜をベースに考案。温泉地ともあり、すぐそばの宿の温泉を分けてもらい、蒸し料理などに活用することもある。8席しかない店内はいつも満席で、地元・長崎からの常連客をはじめ、ここでしか味わえない料理を求めて関東や海外から訪れるファンも多い。

〈▲ この日、最初に出されたのは、湧水で茹でた在来野菜のお出汁。この日は春菊のお出汁〉

〈▲ 濃緑な中葉春菊の柔らかい葉先をサラダに。朝採り豆腐のソースと橙ドレッシングを一緒に〉

〈▲ 在来種のじゃがいも「ニシユタカ」、風黒里芋など3種の芋をローストし、カリッと揚げて。平飼い卵を使った自家製マヨネーズも目の前で作る〉

〈▲ 地元の新鮮な魚介もよく使う。この日は朝手に入った真鯛とワタリガニに、地元の在来野菜おおしお菜を添えて〉

〈▲ すぐそばの温泉宿「蒸気屋」に温泉を汲みに行くのも日課。料理の素材はほぼ全て、雲仙近隣で揃うという環境〉

店が「成功する」「流行る」という尺度は、あまりプライオリティが高くないと原川さんは漏らす。この場で、この素材を使い表現したいことは、そういうことではない。

「僕が伝えたいのは、野菜をはじめとした素材の美味しさ。だから『この料理が美味しい』じゃなくて『このきゅうりが美味しい』とか『この卵が美味しい』と思ってもらうにはどうしたらいいかと考えています。

結局自分って、食と人をつなげる、もしくは場を作り出す“メディア”でしかない。虜になった岩崎さんの野菜、雲仙の農家さんの素晴らしい食材を美味しいと思ってもらえれば、もう役割は果たしたという感覚です」

あくまでも主役は、素材。ゆえに原川さんの作る一皿は、一つひとつの素材の輪郭が剥き出しだ。間引き人参、フレッシュ春菊のサラダ、温泉で茹でた冬瓜……かといって、もちろん無骨なそれとも違う。

原川さんの素材に対する解像度の高さ、それを客に伝える表現力、なにより全体の構成、編集の妙――それらをセンスという言葉に凝縮してしまうのも憚られるが、「ハラカワ・キュイジーヌ(原川スタイルの料理)」には、小さなホールで室内楽に身を委ねているような心地よさがある。

〈▲ 原川さんこだわりのワインリストも見逃せないセレクト。おまかせで楽しむのもいい〉

単なる「地産地消」や「地域経済」といった記号を超えて

日本のビストロ・カルチャーを牽引してきた目黒の名レストランBEARD。そしてカリフォルニアChez Panisseのサステナブル・スタイルを受け継いだ神田のThe Blind Donkey。海外の食通からも注目され、その地位を確立しつつも、迷うことなく新たな方向へと舵を切り続ける原川さんの原動力となっているものとは何なのか。雲仙に拠点を移したその理由は明快だ。

――岩崎さんと、岩崎さんの野菜に魅了されたから。

「大袈裟に聞こえるかもしれないけど、この人、地球にとってめちゃくちゃ大事な存在だなって思ったんです。あ、これは世界に伝えるべきだな、と。だってもう40年以上、夫婦2人だけで80種類もの野菜の種を取り続けながら、この土地で農業をやられている。そんな農家さん、世界を見渡してもいないと思います。

The Blind Donkeyは7 割ぐらいが海外のお客さんで、随分と海外の人たちにも認知してもらえていた実感があった。この流れで僕が雲仙に来たら、海外のお客さんも来てくれるだろうという確信はありました」

〈▲ 小浜は海沿いの小さな温泉のまち。流れる時間が、なんだか違う〉

2021年1月のオープンから2年余り。BEARDはコロナ禍にも関わらず各足が絶えず、連日地域内外からの人々で賑わっている。

しかしBEARDは、ローカル食材を使うことで地元経済に循環を及ぼすといったような、わかりやすい地域経済のモデルでもなければ、単なる「地産地消」という記号にも留まらない。やってくる人々は、地域の特別な食材を使った高級料理を求めに来てはいない。ここ、BEARDでしか体験することのできない「刹那的な生」を味わいにきているのだ。

「僕、時々自分でも笑っちゃうんですけど、いろんな要素がひとつに重なる瞬間ってあるじゃないですか。窓から差し込む西日がきれいだと思う事とか、ろうそくが灯っていて、お客さんの会話があって、ふとスピーカから流れる音楽が耳に入ったときに、なにかが共鳴する瞬間。それはクラブのフロアで踊っているみんなが共鳴する瞬間にも似ていて。

あ、重なったと思ったときに、目の前に岩崎さんの野菜があり、窓の外を眺めると雲仙の湯煙が見える。全てが偶然なんですけど、なんか、最高なんですよね」

有機的であることこそが本来のオーガニックの意味であるならば、私たちはいつでもオーガニックで流動的な存在だ。食だけを切り離した生や、住まいだけを切り離した生は存在しないし、脳だけでも、身体だけでもない。私たちを構成するすべての要素がひとつに融合した瞬間の生は、刹那的でありながらも未来を創っていく。

「We are what we eat――私たちは私たちの食べるものでできている」(Chez Panisse創業者アリス・ウォータース)

この言葉は、私たちは何を、どう食べるのか、その「選択」如何によって、自分自身をどう形作るかということを超え、この社会とどう関わっていくのかということを考えさせてくれる。

そう、未来は私たちが創るのだ。それを私たちは知っているからこそ、「頭でっかち」になりすぎたり「正しさ」に縛られすぎると、不安で苦しくなる。そんな時こそ、原川さんの料理や言葉の端々に散らばる有機的で刹那的なエッセンスを味わいたい。

原川さんの料理は、その言葉は、ただただまっすぐに、身体の奥に沁み込んでくるような味わいがある。単にオーガニックであること、在来種であること、大切な土地や人を守るために、地のものを選び、食べること。それらを敢えて主張するような「頭でっかちさ」はそこになく、「直感でたゆたうように生きていたらこうなった」という感じが原川さんであり、BEARDなのだ。

撮影/繁延あづさ

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