M&Aで事業を多角化させながら社会課題を解決
1961年にLPガスの販売会社として創業した明治産業は、明永喜年氏が先代の後を継いで社長に就任した後、積極的なM&Aによって事業内容を多角化させてきた。「“住“を通じてあなただけのプラスを提供します」と掲げられたミッションの通り、M&Aによって「住む」をキーワードにした幅広い事業展開を実現し、グループの成長につなげている。
しかし、明治産業グループがこれまで行ってきたM&Aは、単に自社の成長だけを目的とはしておらず、何らかの社会課題を解決するという共通するポリシーがある。
たとえば2014年にペット情報メディア『犬吉猫吉』をグループ化して運営を担い、それに伴いペット共生住宅事業を手掛けてきたのも、社会課題に目を向けた取組みの一例。そこで目指しているのは、ペットと社会のより良い関係、そして、ペットや飼い主が住みやすいまちづくりだ。
地域の暮らしに寄り添う会社、明治産業グループ。今回は、彼らのペット共生社会の取組みにフォーカスし、代表の明永氏と『犬吉猫吉』の編集長・木下文吾氏に話を聞く。

〈▲ 『犬吉猫吉』編集長の木下氏(写真左)と明治産業グループ代表取締役社長の明永氏〉
ペットと一緒に暮らしにくい日本の賃貸住宅事情を変えていきたい
九州の地域密着型ペット雑誌『犬吉猫吉』が創刊されたのは、今から30年近く前の1994年。今あるペット系雑誌のなかでも最古参の部類にあたる老舗雑誌といえる。雑誌、Web、SNSによるメディア展開に加えて、イベントを頻繁に開催していることが特徴。ペットの無料撮影会「お散歩ウォッチング」をほぼ毎週、九州各地で開催しており、多い時には300組(1,000人)を超える飼い主が、自慢の愛犬、愛猫と共に参加するという。

〈▲『犬吉猫吉』は年4回の季刊誌。1994年に第1号が発刊され、通巻200号を超える老舗ペット雑誌だ〉
ペット専門メディアである『犬吉猫吉』と、「住」に関連した多角的な事業を展開する明治産業。結びつきがなさそうな2社が同じグループになったのは2014年のこと。きっかけは、明治産業が建てたペット共生型賃貸マンションだったと明永氏は振り返る。
「あの当時、たとえばアメリカ・ニューヨークなどでは賃貸物件がペット可であることは当たり前だけど(当時の)日本はというと、ペット可の物件は探すことさえ困難でした。ペットと一緒に住むことがこんなに大変な社会って、どうなんだろうと疑問に感じたのがすべてのスタートでした。
そこで、ペットを飼っている人だけが入居できる賃貸マンションを福岡に建てることにしたんですが、建てるにあたって飼い主さんのリアルな声を知っておきたかった。そこで『愛犬家プロジェクト(わんにゃんプロジェクト)』を立ち上げ、この地域を代表するペットメディアである『犬吉猫吉』にお声掛けして、木下にもアドバイザーとして参加してもらったんです」

〈▲明治産業の明永喜年社長〉
地域のペット事情を熟知し、飼い主ともリアルなつながりを持つ木下氏の意見も取り入れながら、明治産業はペット共生型賃貸マンション『パラディーソ赤坂』を完成させる。
「ペット可物件であっても、ペットを飼っている住人と、飼っていない住人との間でトラブルになるという話をよく聞いていましたので、『パラディーソ赤坂』はペットがいなければ住めない物件に振り切ったんです。それが奏功して、周辺エリアの家賃相場より5,000円程度高い賃料を設定しましたが、すぐに満室になりました。
ただこの1棟だけではペットと一緒に住みにくい世の中であるという問題は解決しません。我々が目指しているのは、ペットを飼っている人たちが住みやすいまちをつくること、日本の賃貸住宅の常識を変えることです。それを実現するため『犬吉猫吉』の知見を活かしつつ、グループとして一緒に取り組むことにしました」(明永氏)
ペットオーナー向けサブスクサービスを開始

〈▲ 画像はイメージです〉
木下氏はペット共生型賃貸マンション『パラディーソ赤坂』建設前の意見交換会で、足洗い場などペットと一緒に住むにあたっての設備について話すと同時に、飼い主である入居者に向けたサービスの充実について提案したという。
この提案が、現在『犬吉猫吉』が手掛けている会員向けのペットオーナー専門サブスク事業『ペットライフ24』へとつながっていく。木下氏は「明治産業グループ入りしたことで、以前から温めていた構想が実現することになった」と振り返る。

〈▲『犬吉猫吉』の編集長を20年以上にわたって務める木下文吾氏〉
「飼い主さんの悩みや課題を解決するため、またペットの健やかな暮らしを実現していくためにメディアとしてやるべきことは、いろいろあるはず。そのひとつが“サブスク”。定額で有料会員を募って、飼い主さんにいろんなサービスを提供するサブスクモデルを考えていたんです。ただ、一定の会員を集めるまでには時間がかかり、すぐに収益化できるものではありません。
それを実行する“体力”さえあれば…と悩んでいたところ、明永社長からお声掛けいただきプロジェクトに参画。その中での議論を通じて、より本質的な課題解決のための取組みをご一緒することになったんです。
『ペットライフ24』のようなリアルなサービスを実装できたのは、明治産業グループに入ったからだと実感しています」(木下氏)
『ペットライフ24』では有料会員に向けて、ペットショップの会員優待やペットオーナー保険、ペットのしつけに関するeラーニングなど、さまざまなサービスコンテンツを提供。サブスク会員になることで多様なペット向けコンテンツが利用できるというサービスは全国的に見ても珍しく、保険会社やペット可物件の管理会社などでも『ペットライフ24』が活用されている。
「当社がプロパティマネジメント(資産管理)事業の一環として手掛けているペット共生住宅事業においても、『ペットライフ24』の各種サービスを導入していますし、それだけではなく、ペットと一緒に住みやすい物件をつくるにあたって『犬吉猫吉』の知見が活かされています。結果的に入居率が上がり、賃料を高めに設定できるので、ペットを飼っている入居者からも、物件のオーナーからも喜んでもらえていますね」(明永氏)
ペットの殺処分を減らすべく愛護団体の活動をビジネスとしてサポート

〈▲ 画像はイメージです〉
『犬吉猫吉』をグループに加えた明治産業がペット共生住宅事業に取り組み、ペットを飼っている人が住みやすいまちづくりを目指すなかで、明永氏、木下氏は捨てられたペットの殺処分という、日本社会が避けては通れない課題にも向き合っている。
特に福岡県はかつて全国でも犬猫の殺処分件数がワーストと言われる自治体だったという事実がある。
「私が『犬吉猫吉』の編集長になった今から20年ほど前、今では考えられない数の犬猫が、毎年殺処分されていました。転勤族が多くて、引っ越しに伴いペットを飼えなくなって手放すという福岡の地域特性がその一因にはあります。
また、動物愛護団体と殺処分を行う行政施設との連携が今ほどとれておらず、引き取り手を十分に探すことなく殺処分してしまっていたというのも、全国的に殺処分件数が今より圧倒的に多かった理由です。ペットメディアに携わるものとして、またこの地域で暮らすものとして、この事実から目を背けてはいけない、何かできることはないかと常に考えていました」(木下氏)
なお木下氏は福岡県筑紫野市を拠点に活動する動物愛護団体『NPO法人セブンデイズ』の理事を務めている。その活動の一例が、愛護団体の「サポーター会員」制度。月会費を払って愛護団体を応援するサポーター会員になれば、その月会費が各愛護団体の活動資金になると同時に、サポーターは会員特典として『犬吉猫吉』が手掛ける『ペットライフ24』の多様なペット向けコンテンツが利用できるというものだ。
「殺処分される犬猫を減らすために、飼い主のモラルを向上させるというのは大前提なのですが、殺処分前の犬猫を引き取って次の飼い主を探す動物愛護団体の力に頼らざるを得ない面があるのも事実。ですから、愛護団体を資金面で応援し、継続的に活動できるような仕組みを構築することが大切です。
サポーター会員の会費は愛護団体の資金であると同時に、わずかではありますが『ペットライフ24』の事業収益にもなります。ボランティアとしてではなく、ビジネスとして成立する仕組みであることが、継続的な支援につながると考えています」(木下氏)
『犬吉猫吉』が明治産業グループに入る前から明永氏も、殺処分問題には課題意識をもっていたという。
「東京より福岡の方が殺処分される犬猫が多い時代もありましたから、どうしてなんだろうと胸を痛めていました。我々はM&Aにおいては、社会課題の解決というのが念頭にありますから、『犬吉猫吉』をグループに加えることになったとき、ペットを飼っている人たちが住みやすいまちをつくりたいという想いに加えて、この殺処分問題についても向き合う必要があると考えていました。ですので、これからも木下の活動を明治産業グループとして支えたいと思います」
動物愛護団体と行政施設との連携強化、動物の殺処分問題がメディアに取り上げられることでの世間の関心の高まり、動物愛護管理法の法改正などによって、全国的に殺処分件数は激減。20年前全国ワーストとも言われた福岡県においても、当時の数十分の一レベルにまで殺処分される犬猫は減ってきている。木下氏が発案した愛護団体のサポーター会員は、草の根的な活動の継続で会員数を増やし、今では1,000人に迫っているという。
「まだないもので、人の役に立ちたい」が新規事業やM&Aの原点
殺処分問題を解決するためには、「飼い主のモラル向上が大前提」と語る木下氏だが、モラル向上のベースとなるペットについての正しい知識の修得が、「ペットと一緒に住みやすいまちづくり」にも欠かせないと認識している。
「ペット可物件で起きる住民トラブルの多くは、ペットがちゃんとしつけされていないことで起きています。また、ペットを手放す際も、なつかないとか、噛むとか、無駄吠えするとか、しつけが不十分であることが理由であるケースが少なくありません。
そこで、サブスクサービス『ペットライフ24』では、しつけに関するeラーニングやzoomによるオンライン講習会など、ペットについて飼い主が正しい知識をもってもらうためのコンテンツを拡充させています」(木下氏)

〈▲ 画像はイメージです〉
2匹のチワワの飼い主である明永氏も、しつけの重要性は実体験から痛感しているという。
「2匹いても全然性格が違って、下の子は素直でよく言うことを聞くのに、上の子は若干問題児気味で(笑)。でも、それは犬のせいではなく、私のしつけの知識が足りていなかったからだと思っています。
うまくしつけられずに悩む飼い主、しつけの大切さを十分に理解していない飼い主は多いと思うので木下が取り組んでいる『ペットライフ24』の教育コンテンツをもっと充実させてほしいですね。それが、ペットと人間のより良い関係をつくり、ひいてはペットと一緒に住みやすいまちへとつながっていくと思っています」(明永氏)
ペット共生社会の実現に向けて、明永氏のアイデアは教育コンテンツの充実だけにとどまらない。
「飼い主は、ペットにちょっとした変化があれば心配になるものです。でも、人気の動物病院であれば、1時間、2時間待ちは当たり前。24時間のオンライン診療が実現できれば、とても良いサービスになると思いますね。
それから、明治産業グループでは障がい者アートの活動を支援しています。デジタルアートで動きをつけた犬猫の作品を障がい者の方に描いてもらえば、そのペットが亡くなってからも飼い主が在りし日を偲べるようになるんじゃないかと、構想しているところです」
明永氏の口から次々に飛び出すアイデアを隣で聞きながら、木下氏は『犬吉猫吉』が明治産業グループ入りしたことで、楽しみながらチャレンジするという明治産業ならではの社風を実感していると語る。
「やっている人が楽しまないと、チャレンジは成功しないし、継続もしないということは明永社長から常々言われています。編集部内では、『サブスク会員向けに、飛行機をチャーターしてペットと一緒に海外旅行に行ける企画なんていいよね』とか、スケールの大きな話が飛び交っています。それが、夢物語ではないレベルで語れるというのは明治産業グループだからこその魅力でしょうね」
今回紹介した『犬吉猫吉』以外にも「明治産業グループ」としての事業内容は多岐にわたり、なかには、白内障や腎不全の予防に効果がある医療系素材の研究開発、東南アジアをターゲットにした電動小型バイクのバッテリー開発など、事業のコアとなる「住」とは関係のない事業も含まれる。
しかしどの事業も共通するのが「まだないもので、人の役に立ちたい」という明永氏の信念。そのピュアな思いのもと、あらゆる社会課題に目を向け、他社がやっていない方法でその解決を目指す明治産業は、これからも楽しみながらのチャレンジを続けていくことだろう。
明永 喜年さん
あけなが きとし。1961年生まれ。福岡県福岡市出身。九州産業大学を卒業後、東京の電機メーカーに就職。父の急死に伴い福岡に戻り、1986年、明治産業に入社。弱冠25歳にして、実質的な経営を担うことに。1999年に代表取締役に就任。趣味は海外旅行。「1年に1つ趣味を増やす」をモットーに、ピアノや三味線、サックスなど、様々な楽器演奏にもチャレンジしている。
木下 文吾さん
きのした ぶんご。1976年生まれ、長崎県長崎市出身。九州産業大学芸術学部を卒業後、株式会社ゼネラルアサヒ入社。2002年に株式会社犬吉猫吉へ入社。25歳で歴代最年少編集長に就任。現在は取締役本部長として出版、イベント、WEB、会員ビジネス等多様な事業を統括するとともに、ペット関連企業・団体のアドバイザーとしても活動。NPO法人日本ペットシッター協会理事、NPO法人セブンデイズ理事。
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取材後記
担当・近藤耕平
『犬吉猫吉』が明治産業グループの一員であることは、取材前から知っていたのですが、なぜペットメディアが「住」関連の事業を手掛ける明治産業グループに入っているのか、疑問に感じていました。言葉の端々からペット愛が感じられる明永社長、木下編集長の「ペットと共に暮らしやすい社会を実現したい」という想いを聞いて、疑問が腑に落ちた次第です。
『犬吉猫吉』をグループ化することで、どのようなシナジーを狙っているのかという僕の質問に、明永社長は「特にシナジーを考えてM&Aしたわけではありません」と即答しました。「まだないもので、人の役に立ちたい」これが明永社長が新規事業やM&Aを行う際の明確な基準です。ペットと一緒に暮らしにくい世の中という社会課題があり、ペット向けサブスクサービスという他にないアイデアを応援し、社会課題の解決に取り組みつつ、結果的に本業とのシナジーも生まれる。この流れが、まさに明治産業らしいM&Aだなと感じました。