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福岡市役所

近い将来、福岡が日本をリードする? 国際金融都市・福岡市の可能性と課題

スタートアップ支援、天神ビッグバン、国際金融都市構想――。

2014年に国家戦略特区の指定を受けて以来、福岡市は目まぐるしい変化を遂げてきた。2025年には福岡空港で第2滑走路の運用が始まり、天神地区では複数の高層ビルが開業を予定している。様々なプロジェクトを内包しながら、アグレッシブに前進を続ける福岡市は、これからどこへ向かおうとしているのか。これまでの10年の歩みを振り返りながら、その近未来を展望する。

 

若い世代を中心に人口流入が続く起業精神旺盛な「スタートアップ都市」

〈▲ 画像はイメージです。 提供:PIXTA〉

まずは福岡市の「現在地」を改めて確認しておこう。

【政令指定都市トップの人口増加率】
2020年の国勢調査における福岡市の人口は161万2,392人で、政令指定都市では全国5位の規模。人口増加数・増加率は政令指定都市トップで、2024年現在も増え続けており、この4年間ではもっとも人口が増えた自治体となっている。

【住みやすさ抜群のコンパクトシティ】
人口減少のフェーズに入っている日本において、福岡に人が集まる要因のひとつは、生活のしやすさだ。博多駅、福岡空港、博多港、天神地区など都心部が半径2.5kmの円内に収まるコンパクトな都市構造となっており、短時間で移動できる。家賃をはじめ生活コストが安く、商業施設やエンタテインメントも充実している。市政に関する意識調査では12年連続で95%以上が「住みやすい」「どちらかといえば住みやすい」と回答した。

〈▲ 画像はイメージです。 提供:PIXTA〉

【若者が多く、IT・クリエイティブ産業が強い】
15の大学と9の短大を擁する「大学のまち」として若者の割合が高く、15-29歳の人口比率は政令指定都市で1位。さらに、ITやクリエイティブ産業の集積、スタートアップ支援の充実が若い世代の流入を後押ししている。福岡のエネルギーは、若者が生み出す活力と革新性にある。

【開業率は6年連続で21大都市中トップ】
そんな福岡市では、2012年に「スタートアップ都市ふくおか宣言」を行い、スタートアップ支援への注力を開始。さらに2014年には国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の指定を受け、スタートアップカフェや法人減税、スタートアップビザといった施策を導入した。これにより、2023年度までに988社が起業、137件のビザ申請が行われた。

2017年に開設された官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」は、スタートアップ支援の拠点となり、福岡市の開業率は6年連続で21大都市中トップを維持している。民間企業もイノベーションを推進。九州電力・西日本鉄道・TOPPANが立ち上げたオープンイノベーションコンソーシアム「シンケツゴー!フクオカ」や、2025年に開業予定の「CIC Fukuoka」など、福岡をイノベーションのハブとしてさらに発展させる動きが活発化している。

 

 

進行する大規模都市開発 2025年、さらに空港が便利に

〈▲ 画像はイメージです。 提供:PIXTA〉

【大規模都市開発でまちがアップデート中】
そんな中、福岡市では、都心部のビル建て替えによる都市基盤の整備が進んでいる。たとえば「天神ビッグバン」。国際競争力強化と新たな雇用創出を目指すプロジェクトで、2024年3月末時点ですでに58棟が建て替えられた。並行して、博多駅周辺でも「博多コネクティッド」による建て替えが進行中で、ホテルやオフィスビルが次々と新設されており、福岡市の都市機能はさらに強化されつつある。

【日本一便利な空港から、東アジアトップクラスの空港へ】
博多駅から地下鉄で5分。天神からは最短で11分。都心部との距離が近く世界屈指の利便性を誇る福岡空港では、2025年に第2滑走路が運用開始予定で、年間の処理能力がさらに拡大される。また、国内線地区に商業施設やホテル、バスターミナルなどを備えた複合施設も建設される予定である。滑走路増設により、国内外の航空路線の拡充が期待され、福岡はアジアのゲートウェイ都市としてさらに存在感を増していくことが見込まれている。

 

金融のプロが評価する「国際金融都市」としての福岡

この10年間、都市機能の向上、スタートアップ支援、イノベーション推進と都市としての“強度”を高めてきた福岡市が、さらなる発展を目指し掲げているのが「国際金融都市」である。

スタートアップ都市としての成長は、金融機能の誘致にも相性が良いとされる。福岡が掲げる国際金融都市構想は、地域経済の活性化だけでなく、日本全体の未来を見据えた挑戦でもある。

目下、国内で国際金融都市を目指しているのは、東京のほか大阪、札幌など“強豪”揃い。福岡市が存在感を発揮し、アジアにおける重要な国際金融都市となり得るのだろうか?

「十分にあり得ます。むしろ東京よりも福岡の方がポテンシャルは高い」

そう語るのは、金融庁で資産運用行政に携わり、現在は九州大学理事(CFO)、資産運用会社「MCPアセット・マネジメント」の上級顧問で、福岡証券取引所(以下、福証)のアドバイザーを務める片岡之総氏だ。

〈▲ 九州大学の理事も務める片岡之総氏〉

日本国内主要都市に加え、ソウルや上海、香港といった東アジアの大都市と短時間でアクセスできる、アジアの玄関口としての地理的特性。都市機能が効率的に配置されるなど、ビジネスパーソンにとって魅力的な環境。外国人居住者や旅行者に対して開放的な雰囲気など、「海外の金融機関や企業がビジネス拠点に選びたくなる要素が多い」と片岡氏は指摘する。

「東京や香港と比較すると金融都市としての規模は小さいですが、それがかえって柔軟な規制や革新的な取り組みを可能にしている点も福岡の強みです。事実、私は金融庁時代、東京で国際金融機能強化の為に海外新興運用機関の誘致に取り組みましたが、金融業界の幅広いネットワークやインフラが整備されているにも関わらず、規模が大きいため関わる人も多く、利害関係者の思惑も絡んで話がなかなかまとまらなかった。新しいアプローチをスピード感を持って試みるには、東京はあまりに図体が大きすぎた。

でも、福岡はそうではありません。本邦GDPの10%を占める九州の経済・産業力を背景に適度な規模感を持ち、マネジメント力、リーダーシップのある高島宗一郎市長がいて、それを支えるスタッフも一般的なイメージの地方公務員とは全く違いアグレッシブで、スピード感に溢れ、高い政策実行能力がある。いろいろな意味で一体感のある福岡は、国際金融都市として成功する可能性が十分にあると考えています」

〈▲ 片岡氏も「高島宗一郎市長(写真)の存在は大きい。国際金融都市を目指す上でも、高島さんのようなリーダーがいるときに進めないといけない」と語る〉撮影:東野正吾

片岡氏は東京ではなく福岡こそ、国際金融拠点になり得る都市だと力を込める。

「福岡には大学の研究力や地域産業のバックグラウンドがあります。これを活かして、ディープテックや環境分野などの新しい産業クラスターを形成することだってできると思っています。特に九州大学は素晴らしい研究成果(例えば、脱炭素、新エネルギー、半導体、医療、農業等)を持っており、これを市場実装するための仕組みを整えれば、国際的な競争力を持つ都市となり得るのではないでしょうか。すでに九大では昨年春、九州大学OIP株式会社を設立し、産官学金の橋渡し機能を強化しています」

片岡氏が大学×地域産業の参考事例として挙げたのが、九州大学の研究に端を発して設立された「株式会社QPS研究所」だ。同社は、独自開発の革新的な小型SAR(合成開口レーダー)衛星を商業用ロケットに搭載し、次々に打ち上げている九州大学発の宇宙ベンチャーである。

「開発を支える大学やパートナー企業・人材が北部九州に集積しているから、こうしたベンチャーが成立しているように思います。QPS研究所を核に、北部九州には宇宙産業に関連した企業やスタートアップが集積しています。これら“金の卵”をしっかり育てていくためには、金融の力が必要です」

事業の将来性を評価する金融機関、投資家が福岡に拠点を構え優良なスタートアップに投資や支援を行う。これにより地域産業を成長させるだけでなく、国際金融の拠点化も進むことになると片岡氏は指摘するが、「福岡市が国際金融都市を目指す上で、最大の課題は福岡証券取引所にある」と続ける。

「2023年、QPS研究所は上場を果たしています。このとき彼らが選択したのは福岡証券取引所ではなく、東京証券取引所のグロース市場でした。これが何を意味するのか、福証の関係者は見つめ直す必要があります。

福証の売買高は年間133億円(2023年)。トヨタ自動車の1日の売買高(200億円)にも及んでおらず、言葉を選ばず言えば証券取引所として機能していない。QPS研究所に限らず、九州の企業が上場するとき、みんな東証に向かっているのが現実です。幸い彼らは本社を福岡に置いてくれていますが…」

〈▲ 福証のアドバイザーという立場でありながら、あえてその福証に苦言を呈する片岡氏〉

この状況を打破するには、福岡証券取引所が国内外の投資家を呼び込むための魅力的なプラットフォームを構築することが必要だろう。例えば、地域特化型の金融商品や、GX(グリーントランスフォーメーション)や半導体産業、ESG強化に資するソーシャルビジネスに特化した投資ファンドの設立、あるいは海外投資家向けに英語対応を万全にすることなども大前提だ。国内外の投資家に『福岡ならでは』の価値を提供し、資金を呼び込み、九州地域全体の産業クラスター形成を後押ししていく、という算段である。

「国際金融都市の旗印を掲げる以上、アグレッシブかつ一定のリスクを覚悟したチャレンジが必要です。野心的な企業や投資家を世界中から呼び込むには、そうした姿勢を示さなければいけない」

投資家やベンチャーキャピタルはスタートアップに投資し、上場やM&Aによってリターンを得ることを第一義としている。その前提となる上場のプラットフォーム(=証券取引所)が機能していない都市に拠点を構えることは現実的に考えられない、と片岡氏は改めて指摘する。

「とにもかくにも福岡証券取引所を、一地方証券取引所にとどまる事なく次の世代の新しい企業・産業のために、まともに機能させること。そこからしか始まらないと思っています。今のままでも国内外の金融関連企業が福岡にやってきてるじゃないか…そう反論される方もいらっしゃるかもしれない。でも、それは九州の持つポテンシャルに魅力を感じると同時に、今後の金融機能の整備に期待しているからなんですよ。だからこそ、福岡証券取引所の現状を『仕方ない』と諦めたり、見て見ぬふりをしてはいけないと強く思っています」

 

 

「福岡でできないなら、よそもできない」

〈▲ 画像はイメージです。 提供:PIXTA〉

福岡市が取り組んできたスタートアップ支援、都市機能の強化は、国際金融拠点という最後のピースを埋め込んで完結すると言っても過言ではない。福岡発のスタートアップが飛躍し、国内外から多くの金融関連企業が進出してくれば福岡市の税収、雇用はもちろん、他産業への波及効果も見込まれ、まちはより活気を増していくに違いない。台湾半導体大手・TSMC(台湾積体電路製造)が進出したことで、地域や関連企業の賃金水準が上がった熊本県のケースはそのよい例だろう。

「福岡で成功事例をつくれば、それは単に地域経済の活性化に留まらず、日本全体の金融エコシステムに新たなダイナミズムをもたらす可能性を秘めています。福岡には、私たちのような金融に関わる人間が希望を託したくなるポテンシャルがあります。しつこいですが、東京よりあるんですよ。ただ“部外者”にできることには限界がある。最後は福岡の経済界で大きな影響力を持つ企業や経営者、もちろん九州大学等のアカデミアを含めた、福岡のみなさんの決断にかかっています。要はどんなまちにしたいのか、そのためにはなにからやるべきかを考えて、実際に行動をすることが大切です」

〈▲ 画像はイメージです。 提供:PIXTA〉

首都圏と大阪以外で人口が増え続ける唯一の都市・福岡。様々なチャレンジできるこのまちは、日本のなかでもっとも恵まれ、多くの可能性を秘めている。そう聞いても、ピンと来ない福岡市民もまだまだ多いかもしれない。東京はまだしも、福岡がシンガポールや香港のようなグローバルな金融都市になるなんてあり得るのだろうか、と。

「あり得るから、私も方々にその可能性を語っています。アジアにおける新たな金融ハブとして台頭できる日本の都市は福岡だけ。ここでできなければ、他地域ではとうてい無理です。じゃあ、福岡は香港やシンガポールのようになれるのか? と聞かれることもありますが、その質問は意味がないと思います。福岡には福岡にしかない強みと良さがある。他の地域では真似できない価値を提供することを考えるべきです」

〈▲ 画像はイメージです。 提供:PIXTA〉

「福岡の地理的利点や効率的な都市設計に加え、産官学のスムーズな連携や、ディープテックや環境分野などの新興産業への取り組みが、その差別化ポイントとなる。福岡が示すべきは、福岡でしか実現できないアイデアや価値をどのように形にしていくか。その独自性こそが、アジアの金融ハブとしての存在感を際立たせるカギになります」

 福岡市が持つポテンシャルを活かすためには、地域全体が一体となり、金融機能の整備や産業クラスター形成を進める必要があるだろう。なにより、福岡市民の意識が重要になってくる。市民一人ひとりが地元企業やスタートアップへの関心を高めたり、地域で展開される産官学連携の取り組みに参加したり――。

 福岡の人が変革を求めるのか、それとも現状維持を望むか。その決断は福岡・九州の活性化だけでなく、日本の将来を占う試金石となるのかもしれない。

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EDITORIAL NOTE
取材後記

担当・光本宜史

「福岡市が国際金融都市になれるのか?」

取材前は半信半疑でした。東京や香港といった大都市と比べたとき、金融都市としての規模の小ささは明らかだし、本当にそんな未来があるのだろうか――そう思っていました。しかし、片岡さんのお話を聞くうちに、それが絵空事ではないことに気付かされました。

福岡の強みはシンガポールや香港の後追いをするのではなく、「福岡にしかない価値を創り出すこと」にあると片岡さんは言います。コンパクトな都市設計や、産官学がスムーズに連携できる環境、ディープテックや環境分野など新興産業の集積――これらは、すでに福岡が持つアドバンテージであり、他都市では容易に再現できない、と。

一方で、「福岡証券取引所の機能不全」という指摘は、見て見ぬふりをしてはいけないとも感じました。せっかく生まれた優良なスタートアップが、最終的に東証へ向かってしまう現状をどう変えるか。金融都市を目指す以上、資金の流れをどう作るかは大きな課題であり、それが福岡の未来を左右することになるとの話は大変説得力のあるものでした。

この数年、片岡さんをはじめ金融の専門家たちが福岡の挑戦に手を貸してくれています。変革に舵を切るのか、それとも現状維持を望むのか。その決断を多くの人が見守っています。

光本宜史

光本宜史

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1972年、福岡県北九州市生まれ。西南学院大学卒。地域経済誌、マーケティング・コミュニケーション専門誌を経て、2014年に独立。経済誌、スポーツ誌、ウェブメディア、社内報などの媒体を中心に取材執筆を行うほか、書籍やウェブサイトの編集企画・執筆も手掛ける。著書に『幸せを届けに~五輪ランナー小鴨由水 もう一つのゴール』(海鳥社・2019年)

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